2023年3月22日

諸般の事情により、特に何があるという訳でもない水曜日に有給を取得することとなり、サービスデーを利用して映画を観にいく。最近は、自転車で走る道から見える範囲だけでも、木々の枝に白や桃色の部分が毎日増えている気がする。職場の最寄り駅そばの木も桃色の花でいっぱいになっていて、先日職場の上司に桜が咲いていたと話すと「あれはアーモンドの花ですよ」と言われた。これまでの数年間、桜だと思って見てきた木がアーモンドであることを今年初めて知る。映画館に向けて自転車を漕ぎながら、眩しさや花粉やその他よくわからないもののせいで、左目から涙が出てくる。

 

『ケイコ 目を澄ませて』の岸井ゆきのはあまりにもケイコという人間で、他の作品などで知っていた彼女と同一人物であることがちょっと信じがたい。街も人の体もこんなに美しく造形されていたのか。観終わってからもしばらくは、音楽やラジオではなく生活音を聴いていたい気持ちになる。

 

自宅に帰ってからも作中の風景が思い出され、屋上に出て街を眺める。今住んでいる部屋はマンションの最上階である5階にあり、屋上の鍵も渡されている。屋上が使用できることを知ったのは入居してからで、屋上で眠ったりご飯を食べたりしようと思ってレジャーシートも購入したが、コンクリートの地面は夏は熱く冬は冷え、数える程しか屋上に出たことがない。入居日の深夜にぬるい空気の中アイスを食べたことと、部屋に遊びに来た幼なじみのギャルが、酒を片手にやたらと絵になる自撮りをしていたのが、屋上での思い出のほぼ全てだ。喫煙習慣でもあれば屋上を有効に使えるのかもしれないが、色々と面倒なので今更煙草を始めることはしないだろうなと思う。日が暮れかける時間はまだ肌寒く、今日も長居することなく部屋に戻る。